『モモ』のメルヘンと一期一会

2020/11/05

時の流れは不思議です。

待っている時は長くて、振り返ってみるとアッという間に時は過ぎ去っています。同じ時間でも感じ方が違います。久しぶりに書棚の片隅に眠っていたミヒャエル・エンデ作『モモ』の本を読み返し、少年の頃を懐かしく思い起こしました。時間泥棒と戦う少女の謎めいた物語です。その世界は時間の持つ深い教えがありました。

お茶の世界にも「一期一会」という時間に込められた主客の心得を伝える教示があります。一生涯に一度限りの出会いと心して人や物と交わる事だとよく耳にしますが、生涯とは生まれて死ぬまでの間とは限りません。朝目覚め夜眠りにつく一日も生涯、ふとした時に出会う一瞬も生涯なのです。機械的に計る時間ではなく人の心の時間、つまり人が人らしく生きる事を喜びにする時間が「一期」の真意です。忙しい現代に、そのような生きた時間が失われてきたように思います。一期一会とは、時の流れに自分を見失うことなく時間を大切に生きる事を伝えています。