新春の若水迎え

2024/01/17

お茶の世界では、新春を迎え初めて炉に茶釜をかけることを『初釜』といいます。
初釜では、元旦の寅の刻(午前4時頃)になると井戸の水を汲み茶会の準備に取り掛かります。寅の刻の天然水は最も清い水と尊ばれ、古来この水は若返りの豊かな生命力を持つ聖水とあがめられていました。このことがいわれとなり、現在も井戸の若水を汲みに行くことを若水迎え(わかみずむかえ)と呼び今に伝わります。
若水迎えの習わしは、年初の厳粛な行事のひとつです。茶人らは除夜から埋火にしておいた炉の中の炭火に新しく炭をつぎ足し、しめ飾りの手桶に満たされた若水を茶釜に注ぎ湯を沸かします。そして小梅や結び昆布を口取りとして濃茶、薄茶を点て一年の無病息災を願い大福の茶会をおこないます。新年の美味しいお茶と温かい人柄に触れられる初釜の風景です。

茶釜
とは言うものの、現在は井戸から天然水を汲むことは現実的ではありません。水道水を利用するのが一般的です。ところが、事も有ろうに今の水道水には雑味や塩素臭などの問題が多く、私たちは水道水への安全性に不安をつのらせています。その対策に多くの家庭では浄水器やウォーターサーバーなどを応用し、日々のより良い飲料水を確保しています。
言うに及ばず、お茶の美味しさには茶葉はもとより水の品質は欠かせません。そこで茶人らはお茶の水質改善に工夫を凝らしています。それが水道水の煮沸(しゃふつ)の手法です。煮沸の仕方は、水に含まれる養分を壊さないほどの火加減で、お湯をやさしく練りながら穏やかな水質に整えていきます。粗い雑味の水道水に微量の甘味とまろやかさが蘇れば、美味しい水の出来上がりです。水道の原水を思い起こせば、随分と水の風味の変化に気付きます。
それではご参考までに、お茶にまつわる水づくりのポイントを少しお話しいたします。

【1】有害な物質や不純物の無い自然水をつくりましょう。
自然ろ過された水が最も安全で安心であることはご承知の通りです。ところが、この清水を入手するのには難しい時代です。そこで水道水を用いた自然水の作り方をご紹介します。
水道水の塩素臭は煮沸により軽減することが可能です。しかし、煮沸によって浄化殺菌された不純物が茶釜の底に沈殿するために、あらかじめ水屋でヤカンなどを代用として煮立てることをお勧めします。その後、仕上げとして茶釜で湯づくりをおこなえば、茶釜の痛みも少なく美味しいお湯が出来上がります。

【2】ミネラルは健康な体づくりに大切な要素です。
元来、水に含まれるミネラルは風味だけでなく健康面にとっても重要な必須のものです。
ミネラルは、五大栄養素(タンパク質・脂肪・炭水化物・ビタミン・ミネラル)の1つです。唯一、無機質で人体の水分を調整したり代謝に関与することで生理機能を健康な状態に保つ重要な役割を担っています。火山国の日本では、そもそもミネラルが欧米諸国に比べると低い土壌環境にあります。その意味において、特に鉄分が不足がちな女性にとってお茶は健康にとても有益です。つまり、茶葉に含まれるミネラルと併せ茶釜の鉄分も加わるので、健康な体づくりに効果的なのです。

水
【3】pH(水素イオン濃度)が中性(pH7)であることが望ましい。
人間の体、特に人体の隅々を流れる血液は中性値を保っています。そのような理由から水は中性値をもった状態が良いといわれています。とりわけ酸化体質の体にはありがたい美味しい水となります。また、お茶の葉自身に還元力があるのでアルカリ度は高まります。
お茶の湯相を整えるということは、お湯の温度だけではなく水に含有している養分を生かすことでもあり、それにより茶葉の養分と豊な水が溶融し薬の効果や風味を相乗させることでもあるのです。

【4】水の浸透性を高めましょう。
水の特性を高めるには、十分に水を練る(かき混ぜる)ことで夢はかないます。
そもそも水の分子は、ほかの分子と集まろうとするイオンの電気的な性質を持っています。その水の分子の集まった大きな水(クラスター)は人体を構成する約60兆個を超える細胞に溶け込みにくい状態にあります。そこで、各細胞に浸透しやすいように水の分子を細かくさせることが私たちの体をみずみずしく保つ秘訣になるのです。
いつまでも若々しい体づくりのためにも水やお湯の十分な練り込みは欠かせません。

【5】美味しいお茶は、軟水がお勧めです。
美味しい水の条件は、カルシウムやマグネシウムが多過ぎないことです。
水を少し口に含ませ転がせてみると水の硬さを知ることが出来ます。口当たりが重く苦味を感じ辛さもあれば、その水は硬水です。反対に、軟水は若干の甘味とまろやかさを感じさせるので、口に含めばお分かりいただけると思います。お茶にはこの軟水が適しています。

滝

およそ以上のようなことに心を寄せれば、ひと昔前の美味しい水に出合えることでしょう。
世界の自然がいたぶられる現代ですが、私たちは尊い水に限ることなくあらゆる自然環境を大切に守っていきたいものですね。
2024年、この自然への愛しみは、私たちの新たな時代を迎える未来を豊かなものにしてくれるに違いありません。自然を愛する者は、自然からも愛されるのです。